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生薬とは、天然物から有効成分を単離せずに用いる薬を指すが、その中にはヒトに由来する生薬も存在する。本稿では、それらの生薬について説明する。


頭髪
「髪髲」:加美、曽里加美、乱髪(髪を梳いて得られたもの)、久志計豆里加美
乱髪霜(黒焼きにしたもの)(現代の日本でも使用例が見られる)
体内の余分な水分を排出する作用(利水道)、止血作用
応用:五癃(一般的な5種類の尿路疾患)、大人痓(大人の破傷風による剛直様症状)、小児驚癇(子供のひきつけ)、大小便の不通、霍乱(激しい下痢や嘔吐)
漢方処方:髪灰散(髪を焼いた灰)、無憂散(当帰、川芎、白芍薬、枳殻、乳香、木香、甘草、髪灰)、乱髪膏などの処方。
また現代の中医学では血余炭として使用。


「髭須」:加美豆比介、之毛豆比介、宇和比計、志多比計
癰瘡(化膿したできもの)、大小便の不通、子供のひきつけ、鼻血止め(灰にしたものを用いる)

陰毛
「陰毛」:豆比気、末良計
男性の陰毛:蛇に咬まれた時に陰毛20本を含ませその汁を飲んで毒を退ける効果、横生逆産(胎児が出産時に頭から出ない)の難産時に夫の陰毛27本を焼き、猪膏(イノシシの脂)と混ぜて大豆程度の大きさにしたものを飲ませると効果。
女性の陰毛は:五淋(糖尿病や膀胱炎などの計五種類の尿路疾患"石淋、気淋、膏淋、労淋、熱淋"を指す)および陰陽易病(男を陽、女を陰とし、男女の性交から生じる病)に用いる。


「爪甲」:豆女、豆米
利小便(利尿)や催生(陣痛促進)
応用例:淋病や脚気、胞衣不下(胎盤が降りてこない症状)、鼻血。

頭垢
「頭垢」:雲脂、「加之良乃安加、加志良乃阿加
応用例:労疫(結核など)、蠱毒(虫を用いた呪術)鬼魅(鬼や化け物によると考えられた病)の治療、緊唇(唇を強く閉ざした状態)、赤目腫痛など

耳垢
「耳塞」:癲癇やアルコール依存症のほか、蛇などに咬まれた際に使用。

膝頭の垢
「膝頭垢」:焼いた垢を塗ることで唇緊瘡の治療に用いる。


一般の骨
「人骨」:「保禰、比登乃保禰
骨病や骨折、瘡(感染性の皮膚病)に効果。

頭蓋骨
「天霊蓋」:脳蓋骨、仙人蓋、比止加之良保禰志也礼加宇倍之保禰。
応用例:傳尸や疰尸(労虫によって感染すると考えられていた肺病の類)、肺痿(肺結核)、鬼気(死人の邪気)、盗汗(寝汗)など。



「牙歯」:波、岐波
除労(疲れを除く)作用、応用例として瘧(マラリア)、蠱毒、痘瘡(天然痘)などに使用。

歯垢
「歯垽」:波加須美
竹木刺(竹木による刺し傷)や蜂螫(蜂刺され)に用いる。


母乳
「乳汁」:仙人酒、知、知志留。
作用には、補五臓(心臓、肝臓、腎臓、脾臓、肺を活発化させる)、益気(気を養う)、潤毛髪(髪を艶やかにする)、滋養(栄養をつける)
応用例:中風不語(脳卒中後の言語症)や目赤痛多涙(涙が多く、眼が赤く腫れて痛む)、月経不順。
なお西洋の民間療法では、眼の怪我に塗布して用いるほか、滋養目的で肝臓や腎臓の疾患、神経痛、熱病に服用させる例が報告されている

唾液
口津唾:霊液、神水、豆波岐
明目(眼の諸症状の改善)、消腫(腫れを引かせる)、解毒の作用
応用例:明目退翳(眼の諸症状や角膜の濁りを除く)や瘡腫(かさぶた状のできもの)、毒蛇咬(毒蛇に噛まれた場合)。
なお、西洋の民間療法では、毛髪の脱毛を促す作用があるとされるほか、胃酸過多、頭痛、咽頭炎などに使用するとされた。

精液
「人精」:滅瘢(傷痕を消す)作用、湯火瘡(やけど)や金瘡出血(切り傷による出血)のほか、瘤など。


「眼涙」:効能は記されていない。


「人汗」:効能は記されていない。

尿
「人尿」:輪回酒、由波利、比登乃由波利。なお、十歳以下の男児の尿は「童便」と呼ばれ、佳(優れて良い)とされる。
潤肌膚(皮膚に潤いを与える)、滋養、止血、解毒などの作用
応用:於血、吐血、鼻血、喉痛、下痢、打撲、難産、蛇犬咬(蛇や犬に噛まれた傷)。
なお、西洋の民間薬としては毒蛇に噛まれた場合に服用するほか、ハンセン氏病や皮膚の湿疹などに外用された。

「溺白」:尿を溜める壷に生じる沈殿物、人中白。
解毒や止血の効能
応用例:鼻血、吐血、脚気、肺痿(肺結核)など。

「尿抗泥」:尿を溜める壷に生じる泥状物質。
蜂蠍虫咬(蜂や蠍に咬まれた時)や喉痺(喉の痺れ)に使用。

「秋石」:人中白(溺白)を加工したものと、偽造品である食塩から作るものの2種類が存在し、前者を「淡秋石」と呼び、後者は「鹹秋石」。「淡秋石」の主成分は尿酸カルシウムやリン酸カルシウムである一方、「鹹秋石」は塩化ナトリウムが主成分である。
滋養強壮作用
応用:喀血、淋病、咽頭腫痛、水腫など。
漢方処方:秋石交感丹、秋石五精丸(蓮肉、白茯苓、秋石、川椒、茴香)

大便
「人屎」:久曽、比登乃久曽。
解毒作用
応用:産後陰脱(産後の子宮脱)、蛇咬(蛇に咬まれた時)、痘瘡(天然痘)、鼻血。
水戸光圀の命により編纂された救民妙薬の、"河豚の毒を解す妙薬"の項には人糞を用いる方法が記されている。便壷の底に蓄積される泥状物質を「糞坑底泥」。発背(身長の発育)、悪瘡(悪性のできもの)に適用。

「人中黄」:甘草黄
甘草の粉末を人糞に混ぜて(或いは竹筒に入れた甘草の粉末を肥溜めに漬けて)作成。解熱や解毒作用
応用例:丹毒(細菌性皮膚疾患)や傷寒熱病(チフスの類)、吐痰など。
漢方処方:化斑解毒湯(知母、黄連、連翹、人中黄、升麻、石膏、甘草、牛蒡子、玄参)
「小児胎屎」:新生児の胎便。悪瘡(悪性のできもの)や鬼舐頭(円形脱毛症)に適用

経血
「夫人月水」:佐波利、女乃月乃毛乃、紅鉛。
解毒箭(毒矢傷の解毒)や女労復(過労により病気が再発した女性)。
経血の付着した布を「月経衣」。
霍乱(激しい下痢や嘔吐)や黄疸、陰瘡(陰部の皮膚疾患)に適用。

血液
「人血」:皮肉乾枯(乾燥肌)や狂犬咬(狂犬に咬まれた時)に用いる。

胆石
「人癖石」:牟祢乃也末伊乃加多末里伊志。
消硬癖(凝結物を除く)や噎膈(食道のつかえ)。

尿路結石
「淋石」:由波里也末伊乃祢里伊志。
噎病吐食(喉のつかえによる嘔吐)や石淋(尿路結石)。

胎盤
「人胞」:胎衣、紫河車、比登乃恵那。
安心(心を落ち着かせる)、益気、補精(精をおぎなう)効果
応用:不妊や労損、癲癇など。
漢方処方:河車丸(紫河車、白茯苓、人参、山薬)や大造丸(紫河車、当帰、黄柏、杜仲、牛膝、生地黄、砂仁、白茯苓、天門冬、麦門冬、人参)。
「人胞」を埋めて得られる水を「胎衣水」。小児丹毒(子供の細菌性皮膚疾患)や狂言妄語の適用。

へその緒
「初生臍帯」:保曽乃禰。
瘧(マラリア)や胎毒(新生児や乳幼児の顔面に出る湿疹)に適用。

ミイラ
「木乃伊」:岐乃也仁乃禰利久須利、美伊良。
悪血(下腹部の血行不良)に効果、骨折や労咳(結核)、吐血、虫歯、淋病など。

人肉
「人肉」:瘵疾(結核)に効能。
中国では宋の時代以降、両親や舅、姑の病気には、自身やその妻が内股の肉を切り取って薬膳とするのが最大の孝行とされた。

内臓
ヒトの五臓の1つ、心臓
「人膽」:鬼気(死人の邪気)、尸疰(肺病の一種)、久瘧(マラリヤ)、金瘡(切り傷)に適用。江戸時代には「人胆丸」という生胆を用いた薬が実際に販売。

陰茎
「人勢」:創口不合(傷口がつかない状態)や下蠶室に適用。

魄(はく)(肉体を支える気)
「人魄」:『本草綱目』曰く、「縊死した人の下には麩炭の如き物があり、すぐに掘らなければ深く潜っていく。これを除かなければ、必ずまた同じ場所で縊死者が出るだろう。これは人の魄であり、魄は地面に入って物となる。」とある。
鎮心(心を安定化させる)、安神魄(精神や魄を落ち着かせる)などの効能。


「人気」:下元虚冷(漢方医学において、腎気が弱った状態)、凡人身體骨節痺痛(骨関節部の痺痛)、鼻衄金瘡(鼻血の出血)など
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